「整体師の資格」として売られている講座や認定証は、どれも国家資格ではありません。整体という施術そのものに、法律で定めた資格制度がないからです。
資格がいらないなら、年収は何で決まるのか。国家資格を持つ柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師と比べて、どこに差が出るのか。国の通知・統計・消費者庁の事故情報をもとに、勤める場合と独立する場合に分けて見ていきます。
資格がなくても名乗れる。でも「何でもできる」わけではない
消費者庁は2017年の注意喚起で、器具を使わない手技の施術を2つに分けています。法的な資格制度がある「あん摩マッサージ指圧」「柔道整復」と、資格制度がない整体・カイロプラクティック・リラクゼーションマッサージなどです。前者は3年以上の養成と国家試験の合格が必要で、施術所を開くときは都道府県知事への届出が求められます。出典: 消費者庁『法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に』(2017年)
資格制度がない側も、自由に何をしてもよいわけではありません。1991年の厚生省の通知は、国家資格の施術以外の医業類似行為について「医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれ」があれば禁止・処罰の対象になるとしています。カイロプラクティックについては、腫瘍性・出血性・感染性の疾患や骨粗しょう症などを施術の対象外とし、頸椎に急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は危険が大きいとして挙げました。がんの治癒など医学的な効果をうたう広告も規制の対象です。出典: 厚生省健康政策局医事課長通知『医業類似行為に対する取扱いについて』(1991年、愛知県掲載)
| 整体師(民間資格・資格なし) | あん摩マッサージ指圧師 | 柔道整復師 | |
|---|---|---|---|
| 資格 | 法的な資格制度なし | 国家資格 | 国家資格 |
| 必要な学び | 決まりなし | 認定校で3年以上+国家試験 | 認定校で3年以上+国家試験 |
| 「マッサージ」を業として行う | できない | できる | — |
| 健康保険(療養費) | 使えない | 医師の同意があれば対象 | 骨折・脱臼・捻挫などで対象 |
| 国家試験の合格率(2026年) | — | 85.0% | 71.5% |
出典: 消費者庁『法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に』(2017年)/出典: 厚生労働省『第34回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表』・『第34回柔道整復師国家試験の合格発表』(2026年)
表の中で年収に直結するのは、健康保険が使えるかどうかです。保険を扱えない整体院は、施術料をすべて自費で受け取ります。料金設定の自由がある反面、患者さんの負担は大きい。無資格で院を開くときの手続きや表示の注意は整体院の開業に資格はいるのかで、利用者側から見た整体とマッサージの違いは肩こりは整体とマッサージのどちらに行くべきかで書いています。
民間資格の取り方と、国家資格に切り替える道
整体の民間資格は、スクールや協会がそれぞれ独自に認定しています。通学・通信・独学のどれでも始められ、期間も費用も運営元ごとにばらばらです。共通の基準がないぶん、資格名だけでは技術の水準が分かりません。
選ぶ目安として、私たちは次の3つを見ています。
- 人体に触れる実技を、講師の前で何時間練習できるか
- 解剖学・生理学と、施術してはいけない状態(禁忌)を教えているか
- 修了後に勤め先の紹介や、現場で研修できる提携院があるか
2つ目は、先ほどの1991年の通知が禁忌の疾患を名指ししていることを考えると外せません。

国家資格の側は、どれも3年以上の通学が前提になります。あん摩マッサージ指圧師の道筋と学校が限られる理由はあん摩マッサージ指圧師の年収と資格に、柔道整復師の学費は柔道整復師の学費に、試験の推移は柔道整復師国家試験の合格率にまとめました。
柔道整復師・理学療法士の求人・転職情報
働き方・給与・職場選びのポイントは本文の各章で解説しています。
整体師の平均年収、国の統計には載っていない
求人サイトや専門学校のページには「整体師の平均年収は○○万円」という数字が並んでいます。けれど、その数字を国が集計しているわけではない。厚生労働省の賃金構造基本統計調査には「整体師」という職種区分がなく、出どころは各サイトが集めた求人票の給与額です。
比べる物差しとして使えるのが、国家資格の側の統計です。同調査では、あん摩マッサージ指圧師・鍼灸師・柔道整復師が「その他の保健医療従事者」という区分にまとめられています。令和7年の平均は月給31万8,600円、年間賞与71万8,300円で、年収にすると約454万円です(企業規模10人以上・男女計)。出典: 厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査』(2026年)
同じ区分を職場の規模で分けると、差が大きく開きます。
| 企業規模 | 月給 | 年間賞与 | 年収(試算) |
|---|---|---|---|
| 1,000人以上 | 32.8万円 | 83.3万円 | 約477万円 |
| 100〜999人 | 29.7万円 | 65.1万円 | 約422万円 |
| 10〜99人 | 28.3万円 | 45.0万円 | 約385万円 |
| 5〜9人 | 23.0万円 | 28.7万円 | 約305万円 |
出典: 厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』(2025年)。年収は月給(きまって支給する現金給与額)×12+年間賞与で編集部が算出

整体院の多くはスタッフ数人の小さな店です。国家資格を持つ人でも5〜9人規模の職場では約305万円、賞与は年28.7万円にとどまります。保険を扱えない整体院の給与が、この水準を大きく上回ると考える根拠は見当たりません。
編集部の見方を書いておくと、整体師として勤める場合の年収は「国家資格の小規模事業所の水準(約300万円)を一つの基準に、歩合と指名でどこまで上乗せできるか」で考えるのが現実的です。
男女別の年収や、未経験で入れる東京のアルバイト求人の時給も、整体師に限った公的な統計はありません。求人票で比べるときは、固定給と歩合の割合、研修期間中の給与、社会保険の有無の3点を並べると違いが見えます。国家資格の側の年齢別・男女別の数字は柔道整復師の給料・年収と鍼灸師の給料・年収で扱っています。
勤め先で変わる給与の形
整体師の勤め先は、整体院、リラクゼーション店、スポーツジム、介護施設などに分かれます。どこで働くかで、給与の組み立て方そのものが違う。
個人や小さな法人の整体院では、固定給に施術ごとの歩合を足す形がよく見られます。指名が増えれば上がり、閑散期には下がる。チェーンのリラクゼーション店では、業務委託契約で施術時間に応じて報酬を受け取る形もあり、この場合は雇用ではないので社会保険や有給休暇の扱いが変わります。
ジムや介護施設は、施術だけでなく運動指導や利用者の見守りも仕事に含まれることが多く、給与は施設の賃金表に沿って決まりがちです。歩合はほとんどない代わりに、毎月の金額は読みやすい。
どの形が得かは人によります。私たちは、経験の浅いうちは固定給の割合が大きい職場で技術を固め、指名が取れる自信がついてから歩合の大きい職場に移る順番をすすめています。最初から完全歩合や業務委託を選ぶと、練習期間の収入が安定せず、技術を磨く前に辞めてしまう人が出やすいからです。
独立後の収入は「単価×人数−固定費」で決まる
自費の整体院では、売上の計算は単純です。施術単価に月の来院数をかけ、家賃・広告費・消耗品などを引いた残りが、店主の手元に残るお金になります。
以下は相場ではなく、計算の仕組みを見るための仮の数字です。ひとりで営業する院を想定しました。
| 想定(仮の数字) | 単価 | 1日の施術数 | 月の売上(22日) | 年の売上 |
|---|---|---|---|---|
| A:単価控えめ | 4,000円 | 6人 | 52.8万円 | 633.6万円 |
| B:中くらい | 6,000円 | 6人 | 79.2万円 | 950.4万円 |
| C:予約が埋まる | 6,000円 | 10人 | 132.0万円 | 1,584万円 |
ここから固定費を引きます。仮に月30万円(年360万円)かかるとすると、手元に残るのはAで約274万円、Bで約590万円、Cで約1,224万円。税金と社会保険料はさらにその先です。
「整体師で年収1,000万円」は、ひとりでも不可能な数字ではありません。ただ、Cは1日10人の予約が毎営業日埋まる前提で、施術者ひとりの体力の上限に近い。編集部は、ここを目標にするより、スタッフを雇うか単価を上げる仕組みを先に考えるほうが、無理のない道だと考えています。
もう一つ見落とされやすいのが、集客にかかるお金と時間です。保険の施術がない整体院は、近所の人が「とりあえず行ってみる」きっかけを作りにくい。開業から来院数が安定するまでの数か月を、貯金でしのげるかどうかも計画に入れておきたいところです。
回数券や前払いのコースで売上を先に立てる方法もありますが、解約や返金の求めには応じる前提で設計しておく必要があります。前払いの売上を運転資金に回してしまうと、返金が重なったときに資金が詰まります。
開業にかかる初期費用の目安は鍼灸院の開業費用、使える補助金は治療院の開業で使える補助金・助成金、リピートを支える予約・連絡の仕組みはLINE公式アカウントの活用が参考になります。
消費者庁に届いた事故1,483件のうち、整体は467件
資格制度がない施術には、もう一つの面があります。消費者庁の事故情報データバンクには、2009年9月から2017年3月末までに、資格制度のない手技の施術による事故の情報が1,483件寄せられました。治療期間が1か月以上の事故は240件で、全体の約16%です。
手技の種類別では整体が467件と最も多く、うち80件が治療1か月以上でした。症状は「神経・脊髄の損傷」が290件で最多。事故全体の約8割は女性で、1か月以上の重い事故は60歳代以上で起きる割合が高いとされています。出典: 消費者庁『法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に』(2017年)

件数には因果関係が確認されていない事例も含まれます。それでも、整体師として働く人にとって、禁忌の知識と「医療機関に回すべき状態」を見分ける力が収入以前の土台になることは、この数字から読み取れます。
1991年の厚生省の通知は、施術を続けても症状が悪化する場合や、腰痛などが改善しない場合は施術を中止し、医療機関で検査を受けるよう求めています。民間資格の講座でこの判断を教えているかは、受講前に確かめておきたい点です。
厚生労働省は、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師と無資格者を見分けるためのリーフレットを作り、希望者には「厚生労働大臣免許保有証」を発行しています。利用者の側にも、資格の有無を確かめる動きがあるということです。
どちらの道を選ぶか、判断の目安
年収と資格の関係を、目指す働き方ごとに整理しました。
| 目指す働き方 | おすすめの資格の取り方 | 年収を左右するもの |
|---|---|---|
| 早く現場に出て自費の施術を磨きたい | 民間スクール、または整体院で修業 | 指名・歩合、のちの独立 |
| 病院・介護施設などで安定して働きたい | 柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師などの国家資格 | 職場の規模と賞与 |
| 保険と自費の両方を扱う院を開きたい | 国家資格を取ってから自費メニューを足す | 保険の施術と自費の組み合わせ |
| 今の仕事を続けながら副業で始めたい | 通信講座や短期講座の民間資格 | 施術できる時間の確保 |
すでに国家資格を持っていて、別の業界も視野に入れている人は柔道整復師の異業種転職もあわせてどうぞ。
民間資格で始めて、あとから国家資格に進む人もいます。
現場で数年働くうちに、保険の施術を扱いたくなったり、病院や介護施設で働く道を考えたりするのは自然な流れです。その場合も、民間資格の講座で学んだ時間は国家試験の受験資格には数えられず、認定校で改めて3年以上学ぶことになります。働きながら夜間部に通うなら、勤め先の営業時間と授業の時間が重ならないかを先に確認してください。
遠回りに見えても、現場を知ってから学校を選ぶほうが、どの国家資格が自分に合うかを決めやすい。編集部はそう考えています。
柔道整復師・理学療法士の求人・転職情報
働き方・給与・職場選びのポイントは本文の各章で解説しています。
細かい疑問に答えます
- Q整体師の資格の合格率はどのくらいですか?
- A
民間資格の合格率は、認定する団体がそれぞれ公表しているもので、国がまとめた数字はありません。国家資格の側では、2026年の第34回国家試験の合格率はあん摩マッサージ指圧師85.0%、はり師67.2%、きゅう師70.5%、柔道整復師71.5%でした。
- Q整体師は「整体院」で健康保険を使えますか?
- A
使えません。健康保険の療養費の対象になるのは、柔道整復師による骨折・脱臼・捻挫などへの施術や、医師の同意を得たはり・きゅう・マッサージなど、国家資格の施術に限られます。整体院の料金はすべて自費です。
- Q整体の店で「マッサージ」と表示してもいいですか?
- A
あん摩・マッサージ・指圧を業として行えるのは、医師とあん摩マッサージ指圧師の免許を持つ人です。無資格の店がマッサージを行うことはできません。看板やメニューの表示も、施術の中身と合っているかを確認してください。
- Q50代・未経験からでも整体師になれますか?
- A
年齢の制限はありません。民間資格は年齢を問わず受講できます。国家資格は3年以上の通学が必要なので、卒業時の年齢と、その間の生活費をどう賄うかを先に計算しておくと判断しやすくなります。
- Q独立して年収を上げるには何が必要ですか?
- A
売上は「施術単価×来院数」で決まり、ひとりで施術できる人数には上限があります。単価を上げる、回数券に頼らずに再来院の仕組みを作る、スタッフを雇うのいずれかが必要です。固定費を抑えた小さな物件から始めるのも一つの手です。
参考・出典
- 消費者庁「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に」(2017年5月26日、大阪市ウェブサイト掲載)
- 厚生省健康政策局医事課長通知「医業類似行為に対する取扱いについて」(平成3年6月28日 医事第58号、愛知県ウェブサイト掲載)
- 厚生労働省「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師と無資格者との判別について」
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(2026年)
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」(2025年)
- 厚生労働省「第34回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について」(2026年)
- 厚生労働省「第34回柔道整復師国家試験の合格発表について」(2026年)
参照日: 2026年10月22日

