返戻された申請書は、不支給になったわけではありません。足りない記載や書類を補って出し直せば、支給の審査に戻る書類です。
厚生労働省も2012年の通知で、返戻は「主に記載内容や添付書類の不備などの補完を行わせるためのもの」だと保険者に示しています。言い換えると、返戻の多くは院の側の書き方で減らせます。
ただし、戻ってきた書類を放置すれば入金は止まったままです。何が理由で戻りやすいのか、2026年7月の改定で何が変わったのか、戻ったらどこまでに何をするのか。受領委任の取扱規程と算定基準の通知を中心に、順に見ていきます。
出典: 厚生労働省保険局『柔道整復師の施術の療養費の適正化への取組について』(2012年3月12日 保医発0312第1号ほか)
返戻・減額・不支給は、同じ「戻り」ではない
保険者から届く知らせには、性格の違う3種類があります。受領委任の取扱規程は、事前点検や点検調査で不備が見つかった申請書を施術者に「返戻」すること、減額や不支給のときは理由を書いた書類と申請書の写しを送ることを、別々の項目で定めています。
| 区分 | 何が起きたか | 院がすること | 支給の見込み |
|---|---|---|---|
| 返戻 | 記載の不備・添付書類の不足で差し戻し | 不備を直して再提出 | 直せば審査に戻る |
| 減額 | 請求額の一部を認めない決定 | 理由の書類を読み、算定を見直す | 認められた分だけ支給 |
| 不支給 | 療養費の支給そのものを認めない決定 | 理由を確認し、必要なら再審査を申し出る | 原則として支給されない |
| 照会 | 患者や施術所に内容を確認中 | 施術録をもとに回答する | 結果しだい |
出典: 厚生労働省保険局長通知『受領委任の取扱規程』(2018年5月24日 保発0524第2号)
返戻は書類の補正、減額と不支給は支給の判断です。後の2つに不服があるときは、取扱規程の「再審査」の章に沿って、理由を書いた書面で再審査を申し出る道があります。同じ事項について再度の再審査は、特別な事情がない限り認められません。照会への向き合い方は患者照会が届いたときの院の対応にまとめました。
出典: 厚生労働省保険局長通知『受領委任の取扱規程』(2018年5月24日 保発0524第2号)

図のとおり、返戻が起きる場面は2回あります。1回目は審査会に回る前の事前点検で、氏名や記号番号、計算の誤りといった形式面が見られます。2回目は審査会のあと、保険者が何か月分かを並べて見る縦覧点検や、病院・診療所のレセプトとの突き合わせです。
出典: 厚生労働省保険局長通知『受領委任の取扱規程』(2018年5月24日 保発0524第2号)/出典: 静岡県『柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)』(2024年10月版)(支給申請書の二次点検)
前者は院内のチェックでほぼ防げます。後者は、単月では問題がなくても、数か月の流れで見ると理由の書き漏れや同じ負傷での医療機関受診が浮かんでくるもので、記録の残し方で差がつきます。
返戻が出やすい6つの箇所
静岡県が保険者向けにまとめた手引きには、保険者が申請書を点検する視点が並んでいます。院の側から読むと、そのまま「戻されやすい箇所の一覧」になります。
| 箇所 | 保険者が見ること | 院の側の対策 |
|---|---|---|
| 資格・氏名 | 施術日に被保険者資格があるか、記号番号の誤り | 毎月初回の来院時に資格確認をやり直す |
| 負傷の原因 | 3部位目を逓減で算定するとき、全部位の原因があるか | 部位ごとに「いつ・どこで・何をして」を書く |
| 部位と逓減 | 多部位の逓減・近接部位の算定が正しいか | 改定後の逓減率をレセコンに反映させる |
| 長期の理由 | 3か月超で長期施術継続理由書が付いているか | 初検日から3か月の前日に理由書を準備する |
| 初検料・再検料 | 3か月内の再来院で初検料を算定していないか | 前回の治癒・中止日を受付で確認する |
| 医科との重なり | 同じ負傷で医療機関の治療中ではないか | 初検時に通院中の医療機関を聞き取る |
出典: 静岡県『柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)』(2024年10月版)(支給申請書の二次点検)/出典: 厚生労働省保険局長通知『受領委任の取扱規程』(2018年5月24日 保発0524第2号)/出典: 厚生労働省保険局医療課長通知『「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」の一部改正について』(2026年 保医発0601第1号)
1. 資格と氏名:一番多いのに一番防ぎやすい
手引きの点検項目の最初は、氏名や番号の誤りと、施術日に被保険者資格があるかどうかです。転職や扶養の外れで保険が変わった月に、古い保険者へ請求してしまう例がここに入ります。
出典: 静岡県『柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)』(2024年10月版)
月が変わって最初の来院時に資格を確かめ直す。それだけで防げる返戻です。
2. 負傷の原因:3部位目を算定する月は全部位に書く
受領委任の取扱規程は、3部位目を所定料金の100分の60で算定する場合、すべての負傷名について具体的な負傷の原因を申請書の「負傷の原因」欄に書くよう定めています。2部位までの月なら空欄でも形式上は通りますが、3部位目が加わった月だけ書き足すやり方だと、書き漏れが起きやすくなります。
出典: 厚生労働省保険局長通知『受領委任の取扱規程』(2018年5月24日 保発0524第2号)
編集部は、部位数にかかわらず全部位の原因を書く運用をすすめています。照会で患者の回答と照らし合わされるのも、結局はこの欄だからです。保険の対象になる負傷の考え方は整骨院で保険が使えるけが・使えないけがを参照してください。
3. 部位と逓減:2026年7月から2部位目にも逓減
2026年6月の改正で、後療料・温罨法料・冷罨法料・電療料の多部位逓減が変わりました。改正後は、捻挫と打撲の2部位目が所定料金の100分の80、3部位目は骨折・不全骨折・脱臼・捻挫・打撲のすべてで100分の60です。4部位目以降の料金は3部位目までに含まれる点は変わりません。
出典: 厚生労働省保険局長通知『「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準」の一部改正について』(2026年 保発0601第4号)/出典: 厚生労働省保険局医療課長通知『「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」の一部改正について』(2026年 保医発0601第1号)

レセコンの設定が古いまま7月分以降を請求すれば、2部位目を満額で計算した申請書が何枚も並ぶ。点検ではすぐに分かる誤りだ。捻挫と同時に起きた近くの打撲・挫傷は捻挫だけで算定するなど、近接部位にも同時に算定できない組み合わせがあります。改定の中身は2026年の柔道整復療養費改定で、ソフトの更新対応は接骨院のレセコン比較で比べています。
出典: 静岡県『柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)』(2024年10月版)(近接部位:留意事項 第5の4(1)オ)
4. 長期の理由:3か月を超えたら理由書を添付
打撲・捻挫の施術が初検の日から3か月を超えて続く場合は、負傷部位、症状、施術を続ける理由を明らかにした長期施術継続理由書(別紙様式1)を申請書に付けます。1か月の施術回数が多いときは、部位ごとに、3か月を超えて頻度の高い施術が必要な理由まで書くことになっています。
出典: 厚生労働省保険局医療課長通知『「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」の一部改正について』(2026年 保医発0601第1号)
2026年の改正で、初検日の扱いもはっきりしました。初検料を算定できない場合の初回の施術日も「初検の日」に含めて数えます。長期と長期・頻回の減額も、各部位の初検日を含む月から起算するようになり、16日以降の初検を翌月から数える例外はなくなりました。
出典: 厚生労働省保険局医療課長通知『「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」の一部改正について』(2026年 保医発0601第1号)
- 初検日起算点を記録する初検料を算定できない場合は初回の施術日。部位ごとに日付を残す
- 3か月を超えたら長期施術継続理由書を添付負傷部位・症状・継続が必要な理由。頻度が高ければ部位ごとに理由
- 初検日を含む月から5か月を超える月所定料金の100分の75後療料などの長期減額
- 連続5か月以上・月10回以上所定料金の100分の50長期・頻回の減額。差額の範囲で患者負担を受ける方法あり
出典: 厚生労働省保険局医療課長通知『「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」の一部改正について』(2026年 保医発0601第1号)/出典: 静岡県『柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)』(2024年10月版)(算定基準 備考4)
5. 初検料と再検料:3か月内の再来院に注意
改正後は、負傷が治癒した日、または患者が任意に施術を中止した日の翌日から3か月内に同じ施術所で施術した場合、別の負傷や部位であっても初検料は算定できません。その代わり、治癒・中止から1か月を過ぎた後の施術では、連続する2回まで再検料を算定できる扱いが新しく入りました。
出典: 厚生労働省保険局医療課長通知『「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」の一部改正について』(2026年 保医発0601第1号)
旧ルールの「1か月以上あけば初検」のまま受付で処理していると、ここで戻されます。受付票に前回の治癒・中止日を書く欄を作っておくのが手っ取り早い対策です。
6. 医療機関との重なり:レセプトと突き合わされる
保険者は、病院・診療所のレセプトと突き合わせて、同じ負傷で治療中でないか、入院中の施術でないか、骨折・脱臼で医師の同意を得ているかを点検します。初検時に「いま通っている病院はありますか」と聞き、答えを施術録に残すこと。併用の扱いは整形外科と整骨院を併用したときの保険の扱いで詳しく扱っています。
出典: 静岡県『柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)』(2024年10月版)
柔道整復師・理学療法士の求人・転職情報
働き方・給与・職場選びのポイントは本文の各章で解説しています。
国保連合会のリストに載りやすい申請書
国民健康保険などの申請書では、国保連合会から保険者に「柔整適正化対策参考リスト」が渡されます。静岡県の手引きに載っている抽出条件は次の4つです。
| 抽出項目 | 抽出の条件 |
|---|---|
| 連月初検 | 同じ施術所で、連続する月に初検料が算定されている |
| 頻回施術 | 同じ施術所で、月15回以上の施術がある |
| 多部位施術 | 月に3部位以上の施術が行われている |
| 長期間施術 | 同じ施術所で、3か月を超えて施術が行われている |
出典: 静岡県『柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)』(2024年10月版)
リストに載ったから返戻になるわけではありません。ただ、載った申請書は縦覧点検や照会の対象になりやすく、理由書や負傷原因の書き漏れがあれば、そこで戻ります。
もう一つ見落とされがちなのが、償還払いへの切り替えです。協会けんぽは、照会に繰り返し答えない患者、複数の施術所で同じ部位の施術を受けている患者、長期かつ頻回な施術を続けている患者を対象に挙げ、2027年1月からは「前月までの連続する12か月に通算8か月以上かつ9部位以上」の患者も加えるとしています。受領委任が止まる条件は受領委任の仕組みと中止になる条件にまとめています。
出典: 全国健康保険協会『柔道整復師(整骨院・接骨院)のかかり方』
戻ってきた申請書は、いつまでに出し直す?
健康保険法第193条は、保険給付を受ける権利は、行使できる時から2年で時効により消えると定めています。療養費もこの保険給付です。返戻を机の引き出しに入れたままにしておくと、最後は請求そのものができなくなります。
出典: e-Gov法令検索『健康保険法』第193条
期限が2年あるといっても、施術から時間がたつほど患者の記憶も施術録の記憶も薄れます。私たちは、返戻が届いた月のうちに再提出まで終える、という院内ルールを置くのが現実的だと考えています。
- 返戻の理由を確かめる(付せんや返戻票の記載。分からなければ請求団体か保険者に問い合わせる)
- 施術録と申請書を並べ、どこを直すかを決める
- 補正した申請書を次回の提出に間に合わせる(出し方は所属の請求団体や保険者の案内に従う)
- 同じ理由の返戻が続いていないかを月ごとに記録する
理由がはっきり書かれていない返戻もあります。厚生労働省は2012年の通知で、明確な理由を示さずに返戻を繰り返さないよう保険者に求め、返戻の決定は民間の委託業者に任せられない保険者の権能だとしています。理由が分からないときは、遠慮せず保険者に聞いてかまいません。
出典: 厚生労働省保険局『柔道整復師の施術の療養費の適正化への取組について』(2012年3月12日 保医発0312第1号ほか)
返戻の件数は、院の資金繰りにもそのまま響きます。売上と入金のずれをどう見るかは整骨院の売上の目安も参考になるはずです。
毎月10日の前に、院内で回す確認
受領委任の取扱規程では、申請書は請求団体などを通じて、原則として毎月10日までに保険者へ送られます。院の締めはそれより前です。提出前の確認は、スタッフ2人の院(想定)でも毎月続けられる範囲に絞ったほうが長続きします。
出典: 厚生労働省保険局長通知『受領委任の取扱規程』(2018年5月24日 保発0524第2号)
提出前に見る5点:①今月の資格確認をしたか ②3部位目を算定する申請書に全部位の負傷原因があるか ③初検から3か月を超えた部位に長期施術継続理由書が付いているか ④前回の治癒・中止から3か月内の初検料がないか ⑤受取代理人欄が患者の自筆か(自筆できない理由があれば代理記入の扱いか)
⑤の受取代理人欄は、取扱規程で患者の自筆と決められています。利き手のけがなどで書けないときに限り、柔道整復師が代わりに書いて患者から押印を受ける扱いです。保険者の側は、月ごとに筆跡が変わっていないか、同じ院の何人もの患者が同じ筆跡になっていないかまで点検しています。
出典: 厚生労働省保険局長通知『受領委任の取扱規程』(2018年5月24日 保発0524第2号)/出典: 静岡県『柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)』(2024年10月版)
手書きの施術録で部位ごとの起算日を追うのは限界があります。起算日や理由書の期限を知らせてくれる仕組みがある整骨院向け電子カルテの比較も一度見ておくとよいでしょう。
交通事故や仕事中のけがを健康保険で請求すると、資格の重複や第三者行為の扱いで戻されることもあります。こちらは交通事故・自賠責の請求の流れと労災保険の取り扱いで手続きを分けて書きました。
院長から出やすい疑問
- Q返戻と不支給は、どう見分ければいいですか?
- A
返戻は申請書そのものが不備の補正のために戻ってくるもので、直して再提出します。減額や不支給は、保険者が理由を書いた書類と申請書の写しを送ってくる決定です。届いた書類の種類で区別できます。
- Q返戻された申請書は、翌月の請求と一緒に出してかまいませんか?
- A
再提出の受け付け方は保険者や請求団体で異なるため、所属先の案内に従ってください。編集部としては、届いた月のうちに次の提出へ間に合わせることをすすめます。権利の時効は健康保険法で2年とされています。
- Q長期施術継続理由書は、毎月付ける必要がありますか?
- A
2026年の留意事項では、打撲・捻挫の施術が初検の日から3か月を超えて続く場合に、理由書を支給申請書に添付するとされています。施術が続く月は、その月の症状と継続の理由が分かるように書くのが無難です。
- Q家族やスタッフの施術を保険で請求したら戻ってきました。
- A
2026年7月以降、柔道整復師自身への施術(自己施術)と、家族・関連施術所の開設者や従業員への施術(自家施術)は支給対象外と明記されました。返戻や不支給になるのはこの扱いによるものです。
出典: 厚生労働省保険局長通知『受領委任の取扱規程』(2018年5月24日 保発0524第2号)/出典: e-Gov法令検索『健康保険法』第193条/出典: 厚生労働省保険局医療課長通知『「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」の一部改正について』(2026年 保医発0601第1号)
柔道整復師・理学療法士の求人・転職情報
働き方・給与・職場選びのポイントは本文の各章で解説しています。
戻りの理由を、月ごとに数えてみる
返戻の理由は、資格、負傷原因、逓減、長期の理由書、初検料、医科との重なりの6つでほぼ説明がつきます。どれが多いかは院ごとに違うので、まずは1か月分の返戻を理由別に数えてみてください。偏りが見えれば、直す場所も一つに絞れます。保険請求の全体像は整骨院の保険請求の仕組みにまとめています。
ここに書いた内容は、2026年10月時点で厚生労働省・静岡県・協会けんぽが公開している通知と資料にもとづいています。具体的な運用は保険者や請求団体ごとに差があるため、個別の扱いは各機関に確認してください。
参考・出典
- 厚生労働省保険局長通知「柔道整復師の施術に係る療養費について」の一部改正(受領委任の取扱規程、2018年5月24日 保発0524第2号)
- 厚生労働省保険局「柔道整復師の施術の療養費の適正化への取組について」(2012年3月12日 保医発0312第1号ほか)
- 厚生労働省保険局長通知「「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準」の一部改正について」(2026年 保発0601第4号)
- 厚生労働省保険局医療課長通知「「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」の一部改正について」(2026年 保医発0601第1号)
- 静岡県「柔道整復師の施術に係る療養費の手引き(保険者担当用)」(2024年10月版)
- e-Gov法令検索「健康保険法」第193条
- 全国健康保険協会「柔道整復師(整骨院・接骨院)のかかり方」
参照日: 2026年10月23日

