柔道整復師として経験を積むと、「独立開業したら年収はどれくらいになるのか」「勤務を続けるのとどちらが得か」が気になってきます。
結論から言うと、独立開業した柔道整復師の平均年収を示す公的な統計はありません。開業後の収入は「売上−経費」で決まり、院ごとの差がとても大きいためです。比べる基準になるのは、勤務の柔道整復師を含む職種区分の平均年収約430万円(企業規模10人以上)と、接骨院に多い5〜9人規模の職場での約305万円です。出典: 厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』(2025年)
一方、日本政策金融公庫の調査では、開業1年以内の企業(全業種)のうち採算が「黒字基調」なのは67.0%、「事業からの収入」に満足している人は28.3%にとどまります。独立すれば年収が上がる人もいますが、全員ではありません。出典: 日本政策金融公庫総合研究所『2025年度新規開業実態調査』(2025年)
この記事では、公的データで分かる「勤務の年収」と「開業後の実態」を並べたうえで、接骨院の売上と手元に残るお金を、前提を明示した収支モデルで試算します。
この記事のポイント
・勤務柔整を含む職種の平均年収は約430万円、5〜9人規模では約305万円(令和6年賃金構造基本統計調査)
・開業後の年収を示す公的統計はない。全業種の開業者では黒字基調67.0%、月商100万円未満が39.5%
・保険施術だけの再来1回あたりの療養費は数百円台。年収を上げるには来院数と単価(自費)の設計が必要
・1人院の試算では、月商100万円で税・社会保険料の前に年約750万円が残る一方、月商60万円では約270万円と勤務を下回る
・独立には実務経験3年と施術管理者研修が必要。開業時の平均年齢は43.9歳(全業種)
比較の基準:勤務の柔道整復師の平均年収
国の賃金統計(賃金構造基本統計調査)では、柔道整復師は単独の職種として集計されておらず、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師などと一緒に「その他の保健医療従事者」として集計されています。以下はその区分の値で、年収は「きまって支給する現金給与額×12か月+年間賞与」で計算しています。
| 企業規模 | 月給 | 年間賞与 | 年収(試算) |
|---|---|---|---|
| 10人以上の平均(39.9歳) | 30.4万円 | 65.9万円 | 約430万円 |
| 1,000人以上 | 32.8万円 | 83.3万円 | 約477万円 |
| 100〜999人 | 29.7万円 | 65.1万円 | 約422万円 |
| 10〜99人 | 28.3万円 | 45.0万円 | 約385万円 |
| 5〜9人 | 23.0万円 | 28.7万円 | 約305万円 |
出典: 厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』(2025年)

個人経営の接骨院に多い5〜9人規模では年収約305万円で、大きな法人との差は170万円以上あります。年齢別では40代前半の約500万円がピークです。勤務の年収の詳しい内訳は柔道整復師の給料・年収の実態(厚労省データ)で解説しています。
独立を考えるときは、「今の自分の年収」と「勤務を続けた場合に見込める年収(40代で約500万円前後)」を基準にして、開業後にそれを上回れるかを考えるのが現実的です。
独立開業した柔道整復師の年収は?公的データで分かること
接骨院の開業者だけを対象にした公的な年収統計は見当たりません。そこで、全業種の開業者を毎年調べている日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(公庫が2024年4〜9月に融資した開業1年以内の企業が対象、調査時点2025年8月、回収2,165社)から、開業後の様子を確認します。出典: 日本政策金融公庫総合研究所『2025年度新規開業実態調査』(2025年)
| 項目 | 2025年度調査の結果 |
|---|---|
| 現在の月商(売上高) | 100万円未満 39.5% / 100万〜500万円未満 44.2% / 500万〜1,000万円未満 7.9% / 1,000万円以上 8.4% |
| 予想月商の達成 | 達成(100%以上)58.7% |
| 採算状況 | 黒字基調 67.0% / 赤字基調 33.0% |
| 1週間の労働時間 | 50時間以上 49.8% |
| 事業からの収入が本人の定期収入に占める割合 | 100%(ほかの収入はない)53.3% |
| 開業の総合的な満足度 | 満足 74.8% |
| 「事業からの収入」への満足度 | 満足 28.3% |
出典: 日本政策金融公庫総合研究所『2025年度新規開業実態調査』(2025年)

開業して1年以内では、約4割が月商100万円未満です。黒字の院が3分の2あっても、満足度の項目別で「収入」に満足している人は3割に届きません。開業そのものへの満足度(74.8%)は高く、やりがいと収入を分けて考える必要があることが分かります。
全業種の結果なので接骨院にそのまま当てはまるわけではありませんが、「開業直後は勤務時代より収入が下がることも珍しくない」「軌道に乗るまでに時間がかかる」という傾向は、開業を考えるうえで押さえておきたいポイントです。
開業後の「年収」は勤務の年収と意味が違う
勤務の柔道整復師の年収は、会社から支払われる給与の額面です。一方、独立開業した人の「年収」は、売上から経費を引いた事業所得のことで、そこから自分で税金と社会保険料を払います。同じ「年収500万円」でも、手元に残るお金は違います。
| 項目 | 勤務(給与所得) | 独立開業(個人事業の事業所得) |
|---|---|---|
| 年収の意味 | 給与の額面 | 売上−経費(借入金の元本返済は経費にならない) |
| 健康保険・年金 | 社会保険料は会社と折半 | 国民健康保険・国民年金を全額自己負担(法人化や従業員数で変わる) |
| 税金 | 源泉徴収・年末調整 | 確定申告。青色申告特別控除などの制度がある |
| 個人事業税 | なし | 柔道整復は第3種事業で税率3%(東京都の場合) |
| 退職金・賞与 | 勤務先の制度による | なし。自分で積み立てる |
| 収入の変動 | 比較的安定 | 来院数・季節・制度改定で変動 |
出典: 東京都主税局『個人事業税』(2026年参照)/出典: 国税庁 タックスアンサー No.2072『青色申告特別控除』
特に見落としやすいのが、借入金の返済です。融資の元本返済は経費にならないため、帳簿上は利益が出ていても、手元のお金は返済分だけ減ります。開業後の生活費は「事業所得−税・社会保険料−元本返済」で考えましょう。

柔道整復師・理学療法士の求人・転職情報
働き方・給与・職場選びのポイントは本文の各章で解説しています。
接骨院の売上はどう決まる?保険施術1回の料金の目安
日本政策金融公庫の創業支援サイトSTARTの解説では、施術所の収支計画は「患者一人当たりの単価」×「来所者数」で目標売上を立て、家賃などの経費と店主の報酬、借入返済をまかなえるかを確認するよう勧めています。また、施術所の開業には立地や広さにより300万〜800万円ほどかかるとされています。出典: 日本政策金融公庫 START『はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所の創業ポイント』(2024年)
単価を考えるうえで知っておきたいのが、保険施術の料金水準です。2026年7月1日施術分からの柔道整復療養費では、打撲・捻挫の後療料は550円、温罨法料は80円、電療料は46円、明細書発行体制加算は1回10円です。出典: 厚生労働省 保険局長通知『柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の一部改正について』(保発0601第4号・2026年)
| 算定項目(打撲・捻挫1部位・再来の一例) | 料金 |
|---|---|
| 後療料 | 550円 |
| 温罨法料 | 80円 |
| 電療料 | 46円 |
| 明細書発行体制加算 | 10円 |
| 合計(療養費+窓口負担の総額) | 686円 |
出典: 厚生労働省 保険局長通知『柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の一部改正について』(保発0601第4号・2026年)
このように、保険施術だけの再来1回あたりの売上は数百円台です。初検の日は初検料1,560円などが加わりますが、保険だけで大きな売上を作るには多くの来院数が必要になります。料金改定の詳細は柔道整復療養費の2026年改定、保険で扱える範囲と受領委任の要件は受領委任とは?施術管理者の要件をご覧ください。
そのため多くの接骨院では、保険施術に加えて自費メニュー(自由診療)を組み合わせ、1人あたりの単価を上げています。自費メニューの作り方と価格の決め方は接骨院の自費移行|メニューと単価の決め方で解説しています。
独立開業の収支モデル:1人院で年収はいくら残る?(試算)
ここからは、前提を置いた試算です。単価・来院数・経費は筆者の仮定で、実際の数字は立地・家賃・メニュー構成で大きく変わります。ご自身の計画に置き換えて使ってください。
試算の前提(すべて仮定)
・柔道整復師1人で運営(スタッフなし)、月25日営業
・1人あたり単価:保険+自費の平均で2,000円または3,000円
・固定費:家賃15万円、水道光熱・消耗品・通信5万円、広告宣伝5万円、レセコン・リース・請求関連5万円=月30万円
・借入700万円を年利4.0%・10年・元利均等で返済=月約7.1万円(利率は日本政策金融公庫の基準利率の範囲内で置いた仮の値)
・税金・国民健康保険・国民年金は差し引く前の金額
| パターン | 1日の来院数 | 平均単価 | 月商 | 固定費+返済 | 月に残る額 | 年換算(税・社保の前) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 立ち上がり期 | 12人 | 2,000円 | 60万円 | 37.1万円 | 22.9万円 | 約275万円 |
| 安定期(保険中心) | 20人 | 2,000円 | 100万円 | 37.1万円 | 62.9万円 | 約755万円 |
| 安定期(自費を併用) | 20人 | 3,000円 | 150万円 | 37.1万円 | 112.9万円 | 約1355万円 |
月商60万円の立ち上がり期では、年換算で約270万円しか残らず、5〜9人規模の勤務の年収(約305万円)を下回ります。ここから国民健康保険・国民年金・税金を払うため、生活はかなり厳しくなります。月商100万円まで来院数が伸びると約750万円、自費の併用で単価を3,000円に上げると約1,350万円が試算上は残ります。
この前提での損益分岐点は、固定費と返済の合計(月約37.1万円)÷(単価2,000円×25日)で1日あたり約8人です。1日8人を下回ると、店主の取り分がゼロ以下になります。開業前の計画では「1日何人来れば生活できるか」を必ず計算しておきましょう。
ただし、1人院で1日20人を毎日施術し続けるのは体力的にも負担が大きく、公庫の調査でも開業者の約半数(49.8%)が週50時間以上働いています。来院数が増えてスタッフを雇う場合は、5〜9人規模の勤務の年収が約305万円であることを踏まえ、給与に加えて社会保険料の事業主負担も見込んでおく必要があります。採用については接骨院の求人の出し方・採用のコツも参考にしてください。
開業費用の内訳は接骨院の開業費用はいくら?内訳・融資・届出、融資の金利や返済額の詳しい試算は接骨院の開業融資(日本政策金融公庫の金利・自己資金)で紹介しています。
柔道整復師が独立するには?必要な条件と年齢
健康保険を扱う接骨院として開業するには、受領委任を取り扱う「施術管理者」になる必要があります。公庫STARTの解説では、柔道整復師の場合、国家資格取得後に施術所での実務経験3年(保険医療機関での実務も認められるが、最低1年は施術所での実務が必要)と、2日間・16時間の施術管理者研修の受講が必要とされています。開設後10日以内には保健所へ開設届を出します。出典: 日本政策金融公庫 START『はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所の創業ポイント』(2024年)
- 3年以上専門学校・大学で学ぶ柔道整復師養成施設で学び、国家試験に合格。学費の目安は柔道整復師の専門学校の学費と支援制度
- 資格取得後接骨院・病院などで勤務施術所での実務1年以上を含む通算3年の実務経験を積む。勤務中に経営・集客も学ぶ
- 経験3年〜施術管理者研修を修了2日間・16時間の研修。受領委任を取り扱う施術管理者の要件
- 開業6か月前〜事業計画・資金調達・物件単価×来院数で売上を立て、損益分岐点と返済計画を確認
- 開業開設届・受領委任の申出開設後10日以内に保健所へ開設届。手続きは接骨院の開業届出(開設届と受領委任の申出)
独立の年齢に決まりはありませんが、参考までに、公庫の2025年度調査(全業種)では開業時の平均年齢は43.9歳で調査開始以来最も高く、年代別では40歳代が36.9%、30歳代が28.0%でした。出典: 日本政策金融公庫総合研究所『2025年度新規開業実態調査』(2025年)
勤務の年収が40代前半でピーク(約500万円)を迎えることを考えると、30代〜40代前半は「勤務で役職を目指すか、独立するか」を判断する時期と言えます。経験とともに自己資金を貯め、地域の患者層や競合を調べておくことが、開業後の年収を左右します。
勤務・分院長・フランチャイズ・独立開業の年収とリスクの比較
| 働き方 | 収入の決まり方 | 収入の上限 | 主なリスク・負担 |
|---|---|---|---|
| 勤務柔道整復師 | 給与(平均約430万円、5〜9人規模で約305万円) | 役職・規模で上がるが、40代前半の約500万円がピーク | 小さい |
| 分院長・院長(雇われ) | 給与+役職手当・歩合(勤務先の制度による) | 勤務より高くなりやすい | 数字の責任はあるが借入はない |
| フランチャイズ加盟 | 売上−経費−加盟金・ロイヤリティ | 本部の仕組み次第 | 初期費用・ロイヤリティ・契約の縛り |
| 独立開業(1人院) | 売上−経費(=事業所得) | 来院数と単価次第で勤務を大きく上回る可能性 | 借入返済・集客・制度改定・体調不良時の休業 |
フランチャイズとの違いは接骨院のフランチャイズ加盟と独立開業の比較、鍼灸の資格も持っている場合の開業手続きは鍼灸院の開業費用と手続きで比較しています。
独立後に年収を落とさないための5つのチェック
- 損益分岐点を計算する:固定費+返済を「単価×営業日」で割り、1日に必要な来院数を出す
- 単価の設計をする:保険の料金水準を知ったうえで、自費メニューの価格と割合を決める
- 生活費の半年〜1年分を別に確保する:開業1年以内では約4割が月商100万円未満(全業種)
- 制度改定を前提にする:療養費の料金や算定ルールは改定される。保険だけに頼らない収益構造にする
- 撤退の基準も決めておく:赤字が何か月続いたら見直すか、あらかじめ決めておく
開業後に経営が苦しくなる典型的なパターンは整骨院が廃業する理由と回避策で、業界全体の見通しは柔道整復師の将来性で整理しています。
柔道整復師・理学療法士の求人・転職情報
働き方・給与・職場選びのポイントは本文の各章で解説しています。
柔道整復師の独立開業と年収に関するよくある質問
- Q独立開業した柔道整復師の平均年収はいくらですか?
- A
開業した柔道整復師だけの平均年収を示す公的な統計はありません。参考として、勤務の柔道整復師を含む職種区分の平均年収は約430万円(厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」・企業規模10人以上)です。開業後の収入は売上−経費で決まり、院ごとの差が大きくなります。
- Q独立すれば年収1,000万円は可能ですか?
- A
可能性はありますが、来院数と単価の両方が必要です。この記事の試算(1人院・固定費月30万円・返済月約7.1万円の仮定)では、1日20人・平均単価3,000円・月25日営業で、税・社会保険料の前に年約1,350万円が残る計算です。単価2,000円・1日12人では約270万円にとどまります。
- Q独立開業に必要な経験年数は?
- A
健康保険を扱う接骨院として開業するには施術管理者になる必要があり、柔道整復師の場合は実務経験3年(うち施術所で1年以上)と、2日間・16時間の施術管理者研修の修了が必要です。自費のみの施術所であれば受領委任の要件はかかりませんが、保健所への開設届は必要です。
- Q何歳くらいで独立する人が多いですか?
- A
柔道整復師に限った統計はありませんが、日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査(全業種)では、開業時の平均年齢は43.9歳で、40歳代が36.9%と最も多くなっています。
- Q開業後、勤務時代より年収が下がることはありますか?
- A
あります。公庫の調査(全業種)では開業1年以内の企業の約4割が月商100万円未満で、「事業からの収入」に満足している人は28.3%でした。開業直後は来院数が少なく、借入の返済もあるため、生活費の蓄えを用意しておくことが大切です。
まとめ:独立開業後の年収は「来院数×単価−経費」で決まる
勤務の柔道整復師を含む職種の平均年収は約430万円、接骨院に多い5〜9人規模では約305万円です。独立開業した場合の平均年収を示す公的な統計はなく、収入は売上から経費を引いた事業所得で決まります。
保険施術だけの再来1回あたりの料金は数百円台のため、年収を上げるには来院数の確保と、自費メニューによる単価の設計が欠かせません。開業前に損益分岐点と返済計画を計算し、勤務を続けた場合の年収と比べたうえで判断しましょう。
参考・出典
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」(参照日2026-10-07)
- e-Stat「賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別統計表(参照日2026-10-07)
- 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日、参照日2026-10-07)
- 日本政策金融公庫 START「はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所の創業ポイント」(2024年11月5日掲載、参照日2026-10-07)
- 日本政策金融公庫「金利情報(国民生活事業)」(参照日2026-10-07)
- 厚生労働省 保険局長通知「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の一部改正について」保発0601第4号(2026年、参照日2026-10-07)
- 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(参照日2026-10-07)
- 東京都主税局「個人事業税」(参照日2026-10-07)
- 国税庁 タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」(参照日2026-10-07)

